思えば楽なことなど一つもなかったが、そんなに苦労したという感じもしない。
というのも、互いに支え助けあっていたからだ。それは鼎の足が如きものだった。
もう、ここに踏みとどまるのに大した時間は必要がないくらい時は間隔を狭めて迫ってくる。
潮流というのは、怖いもので、もがいても、もがいても孤島を離れられず。
我々もまた孤独を離れられずにいる。
やはり、この長い夜を越えるには、互いにとことん信頼しあうしかないと知った。
それには、信頼に足る心を磨き続けるしかない。
信頼しあう素地を作りたいと切に願った。この願いが、叶う事などないとさえ思ったが、尋常ではない運命の潮力が働く。
もう、この奇跡を疑うことをやめよう。己の内なる世界に語りかけてくる声にもっと耳を貸そうではないか。
唯一の武器は信頼しあう力である。それは、心の鏡。磨かれた心が放つ光明。光明を扱いこなせる人間にならなければならない。武器の扱いを間違えれば、傷つくのは自身である。
今は、祝いたい。しかし何のために? 我々は古人が残した呪われた運命を越える。
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長い夜を越えて
神聖なるものが 欠けたことが わが頭の上に 荷となりのししかかり
過去の因習に捕らわれ 毒に侵された亡者となって彷徨った夜に
大地は熱を失い 人の温もりまでが 忘却された長き夜に 最後の歌を
ラ・ラ・ラ・ララ・ラ~ ラ・ラ・ラ・ララ・ラ~
ラ・ラ・ラ・ララ・ラ~ ラ・ラ・ラ・ララ・ラ~
この夜の帳(とばり)は 絶叫と共に切り裂かれ この夜たちを越える
一つの驚異の力が 地下に沈んだ者たちを強い
再帰して 青む地上を巡り歩かせようと 語りかける
わが胸の戦(おのの)きは 常に高鳴り 胸を押しつぶし
向かう先へと 蠢(うご)めき続けるために生かされ
かつては違っていたであろう 大いなる過去から
呼び戻された この古き心は 昔のように高雅なことを語る
ダニエル
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祝いたい しかし何のために? ひとと声を合わせて歌いたい
だがこの孤独にあって 神なるものの一切 私には欠けている。
これこそわが弱み。呪いがわが腱(すじ)を違(たが)え
足を踏み出す途端に薙ぎ倒す。
かくして私は 深く書くに一日を過ごし 子供のように押し黙り
ただ目から冷たい涙が ひっそりとこぼれ出る。
野の草も鳥の歌も 私の心を重たくする。
それらが喜びを伴う 神の使いである故に。
わが胸の戦(おのの)きには 生気を与える日輪も
冷たくいたずらに 夜の光めいた仄明かりを漂わす。
ああ 天はさながら獄舎の壁 空しく甲斐もなく
わが頭の上に 押しひしぐ荷となってのしかかる!
「メノン ディオティーマを悼む 5」 ヘルダーリン