『完全定本 暦大全』後跋①

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 いよいよ、待望の擇日書『完全定本 暦大全』が9月17日に出版されます。恐らく、年家、月家、日家、時家をまとめあげた総合的な擇日書は国内発の刊行だと思います。

 本書で完全定本シリーズも第六冊目となります。色々と本書を執筆するにあたって、考えたこと、苦労したことなどを後跋でまとめましたので、数度に分けて掲載していきますね。

 それでは、後跋より転載します。

 

———後跋① 

 古代中国においては、皇帝が「時」を支配してきました。「暦」(時間を特定の単位に分類し数える体系)に関する学問である「暦法」が誕生する以前は、太陽、月、星の天体を観察し、農耕に必要な季節の変化から法則性を読み取り、民に時を知らせることが支配層の役割でした。『書経』堯典には、「暦象日月星辰、敬授民時(日月星辰を暦象し、敬(つつ)しんで民に時を授く)」と説明されています。暦によって天体の運行を推測する「暦象」は天体観測を通じて作成され、いわば「時」という概念が誕生し、暦象を正確に把握することによって農産物の収穫を安定させ、社会秩序を確立することが皇帝の最も重要な責務であり、皇帝が人民に「時」を授ける「観象授時」が行われてきました。また、暦法は国家の大典と位置づけられ、王朝交代の際には天子の天命と権威を示すために宮廷の暦学者たちにより、改暦が行われてきたのは史実のとおりです。皇帝が「時」を支配することは、即ち「人民」を支配することでもあったのです。

 皇帝が暦象を正確に把握し「時」の力を行使するためには、皇帝自身が天の徳に通じることが必要とされ、皇帝の徳が天体の動きや季節の循環に関係し、正確な暦象を把握することが可能となると信じられてきました。気象のもたらす自然災害と皇帝の不徳は因果関係があると考えられてきました。徳を失った現在の王朝に天が見切りをつけたとき、革命(天命を革(あらた)める)が起きるとされ、徳を失い、新たな徳を備えた一族が新王朝を立てる(姓が易(か)わる)という「易姓革命」の思想からも顕著です。「時」は循環する自然の規則性の運用と利用からもたらされる人民にとって得られる恵みや豊かさであり、支配層にとっては人を支配する権力であったわけです。

 時間と空間からもたらされる「力」は、我々人間にどのような影響を及ぼすのかを古代人は考え続けてきました。これは、三才思想と呼ばれ、天、地、人をさし、この三つは、それぞれ完結した世界を形成しながら、相対応して多次元的な因果関係にあるという思想です。天の時、地の利、人の和とされる三才は、『孟子』に、次のように説かれています。

 「天時不如地利。地利不如人和。」(公孫丑)

 天の時は地の利に如しかず。地の利は人の和に如かず

 天(時間)の与える機会だけでは足りず、土地(空間)の有利な条件があるのに越したことはないし、土地の有利な条件があっても、人々(人間)の調和がなければ、物事は成就しないのであり、天地人三つをそろえてこそ初めて三位一体の成果となると、古来より術数家たちは考えてきました。

 日本で風水に携わり、しばしば目撃するのが一般人にこの理解が欠如している点です。例えば、風水鑑定とはいわば、陰陽宅の「空間」を読み解くことに主眼があるわけですが、その空間への判断は永遠普遍ではありません。なぜならば、「時間」は刻一刻と変化し続けています。ところが、一般人からすれば一〇年前の風水鑑定も、一年前も、今現在ですら、その鑑定で判断された内容の「空間」であり、その判断は同じであるという幻想を抱いています。

 もしあなたがお見合いをする前に相手の写真を見て、実際のお見合いにあらわれた人が明らかにその写真と異なれば幻滅するでしょう。そして、あなたが見た写真が二〇年前のものだったと知ったら、あなたは悪質なセッティングのお見合いだったと、結婚相談所に文句を言うかもしれません。その写真の被写体は同じ「人間」なのに。これと同じで、「空間」もまた「時間」とともに変化し、ここに「時間」と「空間」を合わせた「時空」の判断が風水には問われているのです。そして、「空間」がどのように「時間」とともに変化し、どのような影響を「人間」に与えるのかを考えなければなりません。この変化し続ける「時間」を読み解くのが、まさに「擇日」なのです。つまり、風水(空間)だけ見て擇日(時間)を見ないのは不完全であり、その風水鑑定の判断もまた時間の経過と共に異なるものになると理解することが重要です。

 「時間」とはまるで魔法のようだと、考えてしまうことがよくあります。例えば、大多数の「人間」は一〇〇年を待たずに死神の鎌に連れ去られます。「時間」の及ぼす「人間」への影響だけを見つめても、このように明白にその影響力の絶大さは推し量れるわけですが、そこに「空間」からの影響を配慮し、はじめて天地人の三才による判断が可能になるわけです。

 例えば、喪葬(死者を葬り弔うこと)のための擇日(日選び)の際に、「仙命」と呼ばれる、お亡くなりになった人の生まれた年命(年柱)を見なくてはいけません。その主事(当事者)の六十仙命(六十甲子の納音)に対する沖殺刑と空亡の関係を注意深く見るのが習わしです。「年」「月」からの影響は「山頭」(空間)、「日」「時」からの影響は「本命・仙命」(人間)に重きを置きます。そして、埋葬に際して陰宅(お墓)を建立する際に、その陰宅がどういった坐山(宅の背後)を用いて、どういった日課(日時)を用いるかを決めなくてはいけません。

         --主事(本命/仙命・人間)
日課(時間)-|
         --坐山(山頭・空間)

 このように「時間」「空間」「人間」の三位一体の判断をしていくことが、本来の風水判断であり、正式には風水と擇日を合わせた判断なのです。総じて擇日学では、年月という時間単位の影響は方位のエネルギーとして空間(陰陽宅)に多大な影響があり、日時という時間単位の影響は時間のエネルギーとして人間に対する影響が強いと判断します。

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『完全定本 暦大全』後跋②へ続く
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