擇日(日選び)の専門書となる『完全定本 暦大全』が9月17日に出版されます。日選びについて尋ねられることが多く、長らくお待たせしました!
誰もが、自分の行う行動と目的に対して吉祥となる未来へとの結びつきを考慮したい。そんな人々が希求する「日選び」を包括的に、そして体系的にまとめた国内初の擇日書です。
本書で完全定本シリーズも第六冊目となります。色々と本書を執筆するにあたって、考えたこと、苦労したことなどを後跋でまとめましたので、数度に分けて掲載していきますね。
それでは、後跋より転載します。
———後跋②
本書を執筆するのに留意した点は、我々が漢字に代表される漢文化を使用している漢字文化圏に住んでいるということでした。本書を手に取った読者は、その圧倒的な漢字の量に驚きを隠せないかもしれません。日本における漢字規格である第一水準と第二水準を凌駕するレベルの漢字の羅列に圧倒されるかもしれません。
そもそも、漢字は四大文明で使用された古代文字のうち、現代でも使用されている唯一の文字で、漢字の分類である「六書」によると、象形(物の形から生まれた漢字)、指事(絵としては描きがたい物を点や線の組み合わせで表した漢字)、会意(二文字以上の漢字の形・意味を組み合わせて作られた漢字)、形声(意味を表す漢字と音を表す文字)、転注(漢字の造字法および用字法を表す漢字)・仮借(既存の同音あるいは類似音をもつ字を借りて表記する漢字)に分類され、漢字の成り立ちにはそれぞれ「意味」があります。
そのため、本書においては、漢字本来の「意味」を崩したくなかったため、安易な著者自身の解釈に偏った日本語訳にすることに躊躇いがありました。擇日の専門用語に安直な概念を投げ与えることで、漢字本来の意味を排してしまうことを危惧したからです。
本書では、擇日の数多ある専門用語に対して、同じ漢字文化圏の言語として、できるだけ元来のオリジナルの漢字にこだわりました。もちろん、本書は日本語の書籍であることを前提に極力ふりがなを振り、そしてその「意味」が妥当であるという解釈と訳を付け加える作業にも十分に留意しました。漢字には圧倒的な「意味」が圧縮されています。単純な日本語に置き換えただけでは、その「意味」を漏らしてしまうかもしれません。
そのため、擇日の専門用語を日本語に置き換えるよりはダイレクトにふりがなと解釈をつけて、大事な意味を払拭してしまわぬように、できるだけそのままの漢字を専門用語として使用することにこだわりました。本書によって読者は、台湾、香港で発行されている毎年の「通書」を読み、用事に合わせた日選びすることができるようになるでしょう。
次におそらく日本初となる本格的な実用書としての擇日書を作成するのにあたり、漢字のみならず原典からの引用や出典にも細心の注意を払いました。擇日で重要視される暦から導き出される一定の規律と法則性に基づいて算出される象徴性のあるシンボルを「神煞(しんさつ)」(叢辰)と呼びます。擇日を学ぶ者にとって重要視される古典は量も多く、そしてそれぞれの古典で用いられる「神煞」も一様ではなく、次の表のようにその数も膨大であり、内容が矛盾するものもたくさんあります。
どのような「神煞」をどう解釈して、どう用いるかということが実践では最も問われます。本書では著者の判断によって312の「神煞」を抽出し、その原理から説明しています。
私は歴史の積み重ねである膨大な資料と、膨大なシンボルの前に擇日を学べば学ぶほど、調べれば調べるほど、深海に潜っていく感覚を味わったことを今でも思い出します。
ただ、私は幸運なことに福建省泉州からの「通書世家(つうしょせいか) 」(伝統擇日を継承する正当な家柄)である鍾進添老師のもとに入門を許され、擇日を老師より学ぶことができました。
鍾進添老師は、福建省泉州の著名な暦家である鐵筆子(てつびつし)の嫡男であり、光緒帝より「璽(じ)」(印章)を賜った懐仁堂における天象学府の司天監(天文官)を務めた国師・劉培中(りゅうばいちゅう)に拜師しており、伝統擇日にも精通した五術の大家です。
また、通書『鐵筆子民暦』を作成した暦家でもあります。この台湾で1968〜2002年まで毎年発行された『鐵筆子民暦』は、非常に有名な通書でした。リチャード・J・スミス著『通書の世界─中国人の日選び』 (三浦國雄監訳)で『鐵筆子民暦』について、次のように触れています。
「1989年版の『鐵筆子民暦』(1987年10月発刊)には、台湾と中華人民共和国(通書の表現に従えば「偽大陸政権」)における劇的な政治変動*が予言されている。周知の通り予言は的中した」
*六四天安門事件(1989年6月4日に勃発)
ここで改めて、私に擇日の指導をしてくださり、本書発刊に際して序文を寄贈してくださった鍾進添老師と師母に御礼申し上げます。本書作成に関して、資料の分類から膨大な資料を読み解き、データベースを構築し、いつでも本書をベースに通書を作成できる自動化されたシステムをつくってくれた助手の山下芳恵女史、原稿の誤植チェックから内容に関しても意見を述べてくれた生徒の亀井伸之氏、矢葺幸光氏、イラストに尽力してくれた上田壽彦氏、この企画を応援し励ましてくれた編集の初鹿野剛氏に感謝申し上げます。
最後に「時間と空間の哲学」(philosophy of space and time)の世界に足を踏み入れる時空の旅人にとって、本書が良き指針となることを願ってやみません。そして、きっとその旅は私と共に続いていくと信じています。
なぜならば、私の時空への試みの地平は開かれており、この旅はきっと続いていくのだから。
2019年7月2日
山道帰一
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『完全定本 暦大全』後跋①
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