台湾の熱い空。温度は体温をゆうに超えている炎天の空の下で、ぼくらは何を見つめていたのかだろうか?
それは陽炎のような幻をちらつかせて消えた切ない思い出。
やはり、今回の台湾で特筆すべき記事を書かなくてはならないだろう。
それは、人が環境に調和して生きること、自然回帰とは何かを深く考えさせられる出来事だった!
強烈な問いかけでもある。
乙骨&ダニエル:「ぼくらは何を見つめていたのだろう?」
真夏の夢から覚めた後、ぼくらはどんな現実を背負っていけばよいのだろうか?
台湾の夏のお茶と言えば、東方美人茶である。ウンカ(小綠葉蟬)と呼ばれるセミ科の虫が、台湾の新竹・苗栗県を中心に夏の間だけ、大量発生し、茶葉を齧る事によって、葉液が出て、茶葉の発酵が進むという稀有なお茶である。
その香りは、「蜜(蜂蜜)」と「果(熟れた果実)」の2種類の品評基準によって、形容され、二つの香りと味わいを持つものは、全体の収穫量の十パーセントに満たない。写真は、ウンカと戯れるダニエル(笑)。
今回の買い付けでは、15種類ほど試飲したが、感動的な味に巡り会えず、来月、品評会の時に出展されるものを根こそぎ試飲し、もっと良質なものをゲットするために、もう一度台湾に飛ぶことを決意していた。
というのも、十分に収穫を終えた時機を見て、遅く行ったはずだが、品評会が7月4日に設定されているため、高級な茶葉は六月の頭に製茶を終えたばかりで、味があまりにも安定していないので、正しく品評するのが難しかった。もっと、感動のある味に出会うためには、もう少し遅く来れば良かったと思う。
そんな時に、このぼくの誰も共有してくれない孤独を察してくれたのか、徐家の新しい三代目の兄弟である徐明鋒氏と徐乾富氏は、素敵なご提案を。
徐乾富氏:「紹介したい人がいます。私の製茶の師匠に会いに行きましょう。そこには、彼が作った東方美人茶があり、一万元(1斤)以上のものがあります。」
そこで、我々はトンデモない人に出会ってしまうことになる。
山間の難儀な道を車で駆け上がると、そこは開けた平地に、みすぼらしい平屋と東方美人の品種である「青心大冇」品種が植えられた茶園があった。
そこで、我々は不可思議なものをたくさん発見してしまうのである。雨水を溜め込んだタンク、グツグツと火が煮えている鍋と釜。
こんな所で生活している人がいる。きっと、それはお茶仙人に違いないと、ぼくと乙骨は、期待に胸が高鳴った。
ダニエル:「一体どんなお茶が出てくるのだろうか?」
徐乾富氏から紹介されたお茶仙人は、パンツ一枚のいでたちで、我々の前に姿をさらした。
その時、ぼくらは外に干してあるパンツと合わせて、この仙人はきっと、パンツ2枚とシャツ1枚だけで生活しているに違いないと不謹慎なことを考えていた。
早速、このお師さんが作ったお茶を拝ましてもらうことに。
お茶仙人:「わしのお茶は販売品じゃねえずら。」
と、豪語しながら、パッケージを開けてお茶を取り出して見せてくれた。
徐乾富氏:「お師さんは、自分の飲む分しかお茶を作っていません。また、一年で作る量も5,6Kgと限られています。」
ダニエル:「えっ、でもさっき1万元っ言ってたじゃん。綺麗なパッケージにも入っているし。」
試飲もさせてもらえず、茶葉を眺めるだけでは埒が明かず、とりあえず茶畑を見せてもらうことに。いつの間にか、このお茶仙人に敬意を払う、ぼくと乙骨は、このお茶仙人から強い影響を受けていた。
写真は、お茶仙人に敬意を払い、裸族となった乙骨&ダニエル。
雨が降れば雨水を貯めて、洗濯用に使い。夏になれば茶を摘み、一年分の自分のお茶を確保する。自分で育てた野菜と五穀に鍋が一個あるだけの生活。唯一の産業といえば、鶏を飼うこと。
乙骨:「本物ですよ。この人、本物なんですよ。なんて、自然に優しい生き方を体現した人なんだろう。こういう意識を持った人が作るお茶は期待できますよね。」
その時、ダニエルは、もう一つの家屋を窓から覗いた時に、見てはいけないものを発見していたが、誰にも告げずに声を押し殺していた。
だがその時!誰かが叫んだ!
乙骨:「ちょっと待ってください。今、冷蔵庫と炊飯器あったよね?しかも最新型だよね?」
井川さんとペルーちゃんの顔がギョッとする。
その時、ダニエルは、思わず。
ダニエル:「あのパンツについているのはミソアルカ?ミソアルヨ。(笑)」
乙骨:「ああ、アレ絶対ミソアルヨ。ミソで間違いないアルネ。(笑)」
ダニエル:「乙骨、アレ恍惚アルカ?早く、洗うアルヨ。(笑)」
乙骨:「もう一枚あるアルヨ。(笑)」
いつの間にか、お茶仙人、もといミソ仙人に懐疑的になり始めてしまったダニエルと乙骨。
ダニエルは勇気を出して聞いてみることに。
ダニエル:「あのぅ、あそこの黒いケーブルは電気でしょうか?ここまで、電気が来ているのでしょうか?」
ミソ仙人:「バカ言え!オマエラが何を期待しているか知らんが。電気がなかったら、楽しく暮らせねーだろぉうが!」
そのやり取りを横で聞いていたペルーちゃんは噴出していた。井川さんは悲しそうな顔をしていた。
乙骨:「ちょっと待って!この人違うアルカラ。絶対違うアルカラ。これを見て見るアルヨ。」
その後、乙骨さんは、地面に捨てられた大量のタバコのフィルターを発見してしまう。それは、あまりにも大量の吸殻だった。猟奇的にも見える無残に土を汚している環境破壊を我々は黙って見つめていた。
その後、井川さんは悲しげに聞いてきた。
井川さん:「タバコのフィルターって土に還るやつもあるんでしょ?」
ダニエル:「あのタバコの銘柄のフィルターは土に還るものではないですね。」
その後、ミソ仙人物語は、ぼくと乙骨の間では伝説となる。
自分が環境に負荷を与えながら楽しく暮らすのと、本当のエコ生活とは別物なのである。
楽しく暮らすだけならば、ただの快楽主義者に過ぎない。
「より快適・より便利」の追求で歪んでしまった今の文明生活から真に脱却するには、削るもの、我慢するもの、そういった覚悟を伴ってこそ、この病んだ文明社会を脱出し、自然に回帰する生活ができると古来の仙人たちは教えてくれている。
それは、もちろんミソ仙人ではない(笑)。
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