水野杏紀 著
この書のタイトルは五術、或いは術数を平易な言葉で述べたものとして相応しいと思います。主要な研究テーマを「術数と東アジア思想・文化」とする水野杏紀さんの新刊です。
水野さんはこれまで、「周易」、「陽宅」や巒頭の「四神」などをテーマに数々の論文を発表し続けています。以下、大阪府立大学 学術情報リポジトリから。
多岐にわたる五術のテーマを本書では、一括りに「東アジアの宇宙観(コスモロジー)」という思想で読み解く試みの書であります。
表紙いっぱいに描かれた羅盤のデザインは、私のまだ未発表の新作羅盤デザインを水野さんからの要望で使用許可を出しています。印刷がきれいなのでそのまま使用できそうですね。(笑)
本書にも記載されている「羅盤」「四神相応」などの内容は、水野さんからのメールに質疑で答えたりし、そのやり取りや水野さんの考えたことが文章になり、これまでの誤謬を正す内容になっていると思います。
これまでの誤謬を正す内容とは巒頭から理気へ、そして四神相応の巒頭観から円図、そして理気風水への変遷とでもいうべき、文献学的に根拠のある論考が進められていることです。
この様な学術書は風水をはじめとする五術を学ぶものにとって非常に価値があり、有益だと思います。喩えるのならば、本書の様に体系的に秩序だてて時系列に従い歴史から技法を読み解くことなく、古代の著名な風水師が言っていたからとか、古典に書かれているからとか、膨大な歴史の積み重ねである風水及びその技法を部分的な一時代の歴史から技法だけを切り貼りして妄信するのは、正しく誤謬に陥る素人丸出しのコピペ風水です。
善き実践は善き研究から生まれてくるものであり、水野さんは文献学的な風水だけを追い求めるのではなく、現代に生きる風水、そして過去から見つめる風水と両方の機軸と視座から風水研究を進めています。
例えば、本書に書かれている「四神」の考察も、北宋の『地理新書』では、以下のように説かれている。これは言わば「四神固定説」である。
「東(青龍)には流水、西(白虎)には大道、南(朱雀)に汙地、北(玄武)に丘(岡)陵のあるのを吉とし、「此の四神を備うる者は大吉」とあり、水(河川)、道、池、山(丘)という形勢と四神を重ね合わせて吉相地の条件としている(図3-9)」 本書P.157より掲載
時代はくだり清代袁守定編『地理啖蔗録』からの巒頭モデルにも言及しています。これは言わば前者の東西南北の方位に固定された「四神固定説」から脱却した「四神相応説」です。
天の象、地の形は易や陰陽五行の精にもとづくものである。祖山は脈の発する根、(龍は水の君 (主)であり、気はその水の母とする)、龍脈は地理の起伏、(龍)穴は天地の氤氳(気が盛んな様子) の精で山川自然の妙を示す。また龍が結局するところであり、穴点は生気が結集するところである。 明堂は穴前に向う位置にあり、広いことが望ましい。これは(明に向(嚮)いて四方の国を治める) 王者の堂の意がある。案山は明堂の前にある山でその勢は高く立つことを嫌う。朝山は朝貢の義、遠 くより朝貢に来たる意があり、遠く高いことを吉とする。また、砂は穴を抱く地勢を含めた周囲の環境をいう。穴から明堂にむかって左を青龍砂、右を白虎砂と呼ぶ(図312、136頁)。本書P.135-136より掲載
そして、現代の風水にも言及しているので、この続きに興味がある人は本書を読んでくださいね。
この様に一つの巒頭における「四神説」だけとっても宋代「四神固定説」、清代「四神相応説」、そして、ここから「龍・穴・砂・水」の三合派、「龍・山・向・水」の三元派、理気風水が発展していくことになるのだが、そういった変遷は歴史を時系列に追って、その風水技法を読み解いていかなければわからないことであり、自分に都合のいい部分の時代の風水技法をコピペすることではない。
悠久の風水史、五術史を前に、水野さんは宇宙観(コスモロジー)という言葉をあて、ある種の共通性を見出そうとした。
こんなに濃い内容ですが、Amazonでも人気です。是非、皆さんもご一読くださいませ。
2016/03/12
山道帰一拜
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