この度、掛川師兄の『密教姓名学』が、上梓されましたので、書評を掲載させていただきます。
出版に寄せて
「名前」とは、物や人物に与えられた言葉で、対象の概念を明確にし、対象を呼んだり、識別する際に使われ、その目的は存在の認識にあるといえるでしょう。
名前は、「名色」(みょうしき)と、仏教では定義されます。名(naaman)と色(ruupa)の「名」とは心的・精神的なものであり、「色」は物質的なものとされ、「名色」はそれらの集まりであり、複合体とされます。古代のウパニシャッド哲学では、現象世界の名称(naaman)と形態(ruupa)、つまり概念とそれに対応する存在の意味に用いられていました。
仏教に伝わってからは、「名」と「色」でそれぞれ個人存在の精神的な面と物質的な面を表し、「名色」とはそのような心的・物的な諸要素より成る個体的存在のこととされ、本書は名前が持つ仏説からの因果関係を根底とし、「密教」と題されています。本書の内容における体系的には「奇門遁甲姓名学」となっており、これまでの「画数」主体の「姓名学」とは異なり、「音声」主体の「姓名学」です。
名前の「名」は、「名前」の意味で古代より用いられ、「名」は人や物などを区別する呼び方であり、声に出して使うものという見方から、「音(ね)」と同じ語源と考える説もあるように、「名前」の吉凶を音で判断する方法論は根拠に乏しいものではないと思います。本来の日本語「ナマエ」の「ナ」は「ネ」(音)に由来する説からも、「音声姓名学」は、「名前」を音声として聞き、認識した人々が心理的にその音声をイメージと共に喚起し、心理的印象を伴い人物像を判断したり想起したりするうえで、その思考方式を心理的な印象ということに着目し辿るという意味で、とても興味深いものであると思いました。
文中、例題として著名人の名前なども出てきますが、その中でも「シンタロー」の例が際立っており、読んでいて「音声」による姓名学の的確さと面白さを感じます。
五十音順に配したインデックスの見やすい「五十音《音声別》名づけ辞典」による吉凶一覧に加え、「なづけ漢字辞典」も所収され、これから名づけをする人たちにとって参考となる一冊となり、よくまとまっています。また、これまでの画数による日本の画一な画数姓名学とは一線を画する音声姓名学の書として白眉の著でもあります。
統計として根拠となるデータも示すことができない眉唾の「名前」の画数による吉凶の迷信に陥るのではなく、今後は心理学的にも研究されるべきである「音声」による「心理効果」という「名前」の未知の分野を奇門遁甲の術理をもって開拓していく本書が、名づけで悩む人々の愁眉を開く作品となることを願ってやみません。
2018年5月18日
山道帰一
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