巫術の儀式に立ちあった稲場さんの頭の産毛は逆立っていた。
*稲場さん:長田南華さんより南華密教を学ぶお弟子さん。張明澄先生の「小周天」講座を主宰したこともある。
儀式は長田南華さんを媒介として、神おろしを行うというものだ。
一番危惧していたのは、正神と邪神の切り分けであり、それを雰囲気で見分けられない人はこれらの儀式に携わってはいけないというのが、原則であった。
過去に儀式の際の見極めを誤り、何度も霊媒が「暴走」したことがあり、一度暴走すると、その霊媒や周囲の人に異変を来たす事もあったので、とりわけ注意が必要であった。
か弱い女性でも、とり憑かれた様に(実際だが)暴れ始め大の大人を殴り倒すこともある。
様々な人格が現れ、語り始めるこの古代儀式において霊媒となる媒介の儀式での様相は、現代医学の上で、明らかに「統合失調症」とみなされるのだろう。
現代精神医学でいう「統合失調症(*精神分裂病)」とはかつては狐憑きとされていた。では何故、儀式の間だけ、その様な人格の分裂病が起こり、儀式が終わると止むのか?それは何故、意図的に派生させ意図的に止めることが出来るのか?
*統合失調症: (de:Schizophrenie、en:schizophrenia)とは、妄想や幻覚などの多様な症状を示す、精神疾患の一つ。医学が進歩した今日でもなお治療が困難な病である。
自然界において、精神分裂病の発生頻度は1000人に7、8人といわれている。しかし、古代儀式の「巫術」では、それらの先天的な要素とは別に、現代精神医学で定義する「統合失調症」が起こる。
ただし、術者はそれを現代精神医学の定義のように見つめていない。
一つ一つ現れる人格を神格と呼び、そこには正邪がある。「天使と悪魔」である。(笑)
長田南華姐さんはドンと構えていた。
長田南華:「フン、この若造がぁ!アタイにそんな術をかけれるものならば、かけてみるがいいさぁ!さあさあ、さあ~!」
ダニエル:「えっ、教えてという話で呼ばれたんですけどぉ。(;◔ิд◔ิ) !!! 」
ギャラリーの掛川師兄と稲場さんは、ニコニコしながら見守っている。
漢(オトコ)、山道の舞台である。いつも、成功率100%を謳い文句に口ずさむダニエルの意識のダイブがはじまった。
ダニエル:「頭の周りの気配に気を配ってください。」
長田南華:「鼻がね。詰まってるの。滝行で、風邪をひいたの。」
ダニエル:「(Oh No~!体調が悪い人は、こういう儀式で霊媒してはいけないんでけどぉ。(;◔ิд◔ิ) !!! 」
まず治病からはじめなくてはならなくなった。巫術は治病にも用いることが出来る。
鼻のつまりを直すように治病を施す。
長田南華:「鼻がね。スースー通るようになったの。」
ここからがスタート地点だった。「さ庭」として霊媒の意識を誘導してゆく。
*さ庭:神慮を審察する人
さ庭として導くことで儀式の成功と失敗が決まる。車の運転のようにハンドリングをしながら、細かい動きと共に注意深く暴走しないように運転をする。
言葉で質疑応答を繰り返し、状態を確認しながら、自分の意識を相手の意識に半分くらい溶け込ませ、霊媒に何が見えて何が起きているかを冷静に把握しなければならない。手に汗握り、意識が磨り減る作業である。
霊媒の体質や素養によって、ハーフチャネリング、フルチャネリングに喩えられる様に、意識が全部無くなって、神格が現れる場合と、半分意識を残しながら神格と会話をして進めて行く2種類に分岐する。
長田南華姐さんには、半分意識を残して儀式を進めてもらう難度の高いコースに突入し、意識が半分ほど飛びながら半分の部分に色々なものが現れてくる。それを冷静に長田姐さん自体が、見てこちらに情報を告げながら、「巫術」は進んでゆく。
この日ぼくらは、儀式の前に神格が現れたときにお伺いをたてる項目を一人一枚ずつ用意していた。
掛川師兄、稲場さん、長田さんの質問項目を書きとめた文章を道壇にセットしてあった。その中には、このメンバー誰もが知らない稲場さんの小学校のときに病院に入院した病名をあててくださいなど、神格を試す内容も盛り込まれていた。
神格にたどり着き、神格と見破るのが難度の高いこの巫術の醍醐味でもある。ただし、相応の神格が出てくれば、過去から未来までお伺いをたてその精度は非常に高いことを私は経験則から知っている。
そこにたどり着くまでの霊媒とさ庭の意識世界のダイブが、なかなか大変だ。
しかし何とも、長田姐さんがんばるじゃないですか!難度の高いハーフチャネリング状態を合計で2時間もこなしました。意外と才能がある。ただし、神仏を最も信じていないというのをこの儀式で証明してしまいましたが。(。◕ฺˇε ˇ◕ฺ。)
儀式がはじまり、霊媒は光に導かれて、一時間近く様々な場所を彷徨うものの・・・。
ダニエル:「その神様は、こっちを見ていますか?」
長田南華:「いいえ、全然見てもくれません。」
ダニエル:「(Oh No~!)ヽ(`△´)/ 」
こんなやり取りが続く。こんなやり取りも・・・。
長田南華:「首みたいなのが浮いています。あっ、白い鉢巻をした人たちがいます。」
ダニエル:「(Oh No~!もう連れてちゃってください!)ヽ(`△´)/
無視して良いです。光を追ってください。」
神様たちからは見向きもされず、何度もオバQに遭遇するものの危ない場面を回避しながら、チャンスは突如としてやってきた。
長田南華:「あっ、二人組みの白い髭をはやした老人たちがいます。」
ダニエル:「こっちを見ていますか?」
長田南華:「見てます。」
ダニエル:「目を見てください。名前を聞きましょう。」
長田南華:「せ、せいてん・・・せいくん!?」
ダニエル:「ご質問をしてもよろしいか聞きましょう。」
長田南華:「ニコニコしています。いいみたいです。」
この時、ぼくは儀式開始から一時間経過して、釣り上げたと思った!
その二人組みが、北斗星君と南斗星君だと意識に過ぎった。道教の神格であり、生と死を司る二人の神とされ、許可すれば、人の寿命を延ばせるとも云われている神々である。
このチャンスを逃してはいけないが、慌てて霊媒の意識のチャンネルが切り替わってもいけない。慎重に事を運ばねば。まず正邪の区別をする。
ダニエル:「ここにいる稲場さんの小学校のときに入院した病名は?」
北斗星君と南斗星君:「腸チフス。」
ぼくは思わず後ろの稲場さんを振り返ってみる。
稲場さんは「ウンウン」うなづいている。正解である。
すかさず、次々と未来への質問をし、十分な回答をもらう。
ところが、四つくらい質問すると・・・。
長田南華:「あっ、目の前から消えていなくなってしまいました!」
その時!
壁に貼ってある魔除けの曼荼羅が壁からフワッと浮いた。冷房はつけていないのに加え、誰もがじっとし無風の部屋である。曼荼羅は1.5m四方のサイズである。
ぼくはとっさにまずいと思った。イヤな予感がする。
それから五分後の8月9日午後7時56分、物凄い揺れが新浦安の埋立地に有る10階建ての耐震構造の無い旧ビルを襲う。揺れは長く、ぼくはとっさに十年前の台湾での大地震を思い出すほど強烈な地震だった。危ないと思ったぼくと稲場さんは霊媒の長田姐さんに本棚が倒れてきてぶつからないように、本棚を押さえるために席を立った。
後ほど長田姐さんは述懐する。
長田南華:「なんか揺れている感じはしたけれど、どっちの世界で揺れているのかがわからなかった。」
その後、地震が止み儀式を続行したが、長田姐さんの身体に痺れが走り、体温が急激に下がってきたので、儀式を中止して意識を呼び戻す。
儀式が終わった後、稲場さんは神に祈るように震えていた。
稲場:「長田さんが地獄の蓋を開いたんだ。恐ろしいや。恐ろしいや~。」
う~ん、やっぱり特別なとき意外はこういった儀式をあまりしたくない。
あっ、でも長田姐さんに一応伝授しましたので、録画も残っていることでしょうから。それを見て、才能を発揮させて、がんばって迷える群生を救済するために努めてくださいませ。
応援しております。
ダニエル:「ああ、恐ろしや~。恐ろしや~。」
しかしぼくらはそれぞれ未来に対して有力な情報をゲットしたのでした。長田姐さん以外。(u‿ฺu✿ฺ)
長田南華:「あなたたち本当に意地が悪いのね。何で私の結婚のことは聞いてくれないの~。」
稲場・掛川師兄・ダニエル:「...(。♋ฺ‸♋ฺ。)...」
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