今月の1月20日に『玄空飛星派風水大全』が発売されます。
自著としては初の理気の専門書であり、全ページフルカラーで648ページのハードカバーとなっています。
この本をご紹介するにあたって、『玄空飛星派風水大全』の18ページある「エピローグ」から順次掲載いたします。
玄空と元空
「玄空」は「元空」とも表記されます。なぜ「玄」の代わりに「元」を用いたのか。通説としては玄空の「玄」の文字が、清の第四代皇帝康こう熙き 帝てい(1654〜1722年)の諱(いみな)が玄燁(げんよう)であったことから、「玄」の文字の使用が避けられ「元」の文字があてられたといわれています。
歴代の皇帝の中でも唐朝の第二代皇帝太たいそう宗と康熙帝は、ともに中国歴代最高の名君とされ尊重されてきたわけです。確かに、中国において四神の「玄武」も「元武」と、「玄」が「元」の文字に置き換えられて表記されています。
歴代皇帝の中で「聖」の文字を含む号(ごう、先祖を祭るための廟に載せられるための名前)をもつのは、康熙帝と遼の第六代皇帝聖宗(せいそう、972〜1031年)だけですから、どのくらい尊重されていたかは想像に難くないでしょう。
しかし、この「元」は康熙帝の諱「玄燁」を避けるために代用されたものであるという説は、「玄空」と「元空」の両単語を古典から紐解くと年代的に符合しないこともあります。
例えば、楊筠松(よういんしょう)の高徒(こうと) である曾文辿(そぶんてん)(854〜916年)の著した『青囊序』(せいのうじょ)には、次のように「元空」という単語に言及しています。
晉世景純傳此術,演經立義出元空。朱雀發源生旺氣。一一講說開愚蒙。
(訓読)
晉の世 景純 此の術を傳(つた)う。經を演(の)べ義を立てて元空を出(いだ)す。朱雀は源に發して旺氣を生ず。一一講説して愚蒙(ぐもう)を開く。
(通釈)
晋の世、郭景純(かくけいじゅん、郭璞[かくはく])は(青囊経の)術を伝えた。(この)経を敷衍(ふえん)(意味をおしひろめて説明)して、義理(正しい筋道)を立て、元空の術を生み出した。朱雀は(元空の元の)源に発現し、(空の)旺気を生じる。(それを)いちいち講説し愚蒙を啓(ひら)いた(道理に暗い人を教え導いた)。
朱雀とは明堂のことであり気が集まる場所で、言わば「水」の空間にして「空」でもあります。朱雀と向かい合うのは元武であり、元武は「山」の空間にして「元」であると述べているようにも取れます。
つまり、元空とは元武と朱雀、向首と坐山の両方位とも解釈できるわけです。「經を演べ義を立てて元空を出す」とは、坐向を用いるもので、言わば風水の「理気」の流儀が始まった起点として、郭景純こと郭璞(かくはく)の術と言及しているものと解釈もできるのではないでしょうか。
康熙帝以降に「玄」が避けられ「元」に置き換えたという説は、「玄空」と「元空」が、同じ意味の単語と説明していますが、康熙帝以前の風水古典籍にもし「元空」という単語を見出さすことができれば、それは間違いなく「玄空」とは別の意味を持つ単語になります。
しかし、康熙帝以降の風水古典籍の抄本ならばすべて「玄」の文字が「元」に置き換えられて書き写された可能性が高く、もし唐の第九代皇帝の廟号である玄宗(在位712〜756年)の「玄」を使用しないためというのであれば、曾文辿の時代にはすでに置き換えられていたということになります。
本来、「玄空」の「玄」とは「一」を「空」とは「九」をあらわし、つまり、「玄空」は一から九までを意味し、これは人体にある九竅(きゅうきょう)を指しています。
九竅とは、人や哺乳動物の体にある九つの穴で、口・両眼・両耳・両鼻孔・尿道口(生殖器)・肛門の総称で、ここからエネルギーである気の出し入れが行なわれ人間は生存しているわけです。そして、この九つの穴は、九星が対応しています。
「紫白」とは九紫と一白であり、これもまた同じく「玄空」の意味である「一から九」をあらわしています。つまり、「紫白」「九星」は、「玄空」と同義なのです。「元」という文字は第一とか始めという意味で「玄」と同じ意味です。
ここまでで「玄空」と「元空」が仮に康熙帝の諱にまつわるルールとして、「玄⇒元」に置き換わり、この二つの単語から、「玄空」に「紫白九星」、そして「元空」に「朱雀と元武」「坐向」という単語の意味があることが想起できます。
と言いますのも、康熙帝の在位期間は1661〜1722年であり、三元派の開祖である蔣大鴻(しょうたいこう、1616〜1714年)の活動期間と重なりますが、蔣大鴻自体は「玄空」と「元空」の両方を使用していることからも、両語は置き換えられた文字で同じ単語という以外の意味があるように私には思えてなりません。
ただし、厳密な古典書籍の写本などを蒐集して精査する必要があり、この二つの単語
の意味が違うかもしれないというのは現時点では、私の憶測の域を出ません。
「エピローグ」は、次の七つのトピックで構成されています。
①伝統というつながり
②虚実
③世界に拡がる伝統風水
④玄空と元空
⑤本書について
⑥風水と私のかかわり
⑦時代は変わって
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